岡山県真庭市は広い市域の約8割を森林が占め、その豊富な森林資源を始めとした様々なバイオマスを利活用した事業を行っている。平成26年にはバイオマス産業都市に選定され、「林業・バイオマス産業課」も設置するなど従来よりバイオマス利用に力を入れている地域であり、最近では生ごみ等の廃棄物系バイオマスの利活用にも取組を展開している。これらの取組は農林業のほか観光業などにも波及効果を生み出しており、地域資源をいかした地域ビジネスを促進した事例といえる。
図1 岡山県真庭市
岡山県北部に位置する真庭市は、平成17年に9町村が合併して誕生した市であり、人口約5万人、総面積約8万haと岡山県で最大面積を持つ市である。北部では酪農や観光業、中南部では農林業が盛んであり、多くの伐採事業者、木材加工会社、市場などが操業しているほか、稲作や果樹栽培なども盛んである(表1参照)。
合併前の平成2年頃より、林業の衰退や過疎化の課題に対し、バイオマス事業を軸とした持続可能な暮らしを実現するための取組を実施しており、木質バイオマス以外の取組では平成15年より廃食用油を用いたBDF化事業を開始し、平成28年にはメタン発酵施設を稼働させている。メタン発酵施設の取組背景としては表2に示す課題を抱えていた。
表1 真庭市の基礎データ
出典:素材生産量以外:農林水産省わが町わが村(令和3年1月閲覧)
素材生産量:2015年農林業センサス
表2 真庭市のメタン発酵施設の取組背景
真庭市における取組例を表3及び図3に示す。
表中に記載している取組例以外に、市内各所に木質バイオマスボイラが設置され、セルロースナノファイバーなど木質資源の高付加価値化を目指す木質バイオマスリファイナリー事業が検討されるなど、従来からの技術に加えて研究開発段階の技術に関するものまで様々な取組を実施している。
現在では実証事業によりメタン発酵施設のモデルプラントが稼働しており、一部の地区の住民により分別された生ごみを原料として、発電や液肥の農業利用などが行われ、住民や農業事業者も巻き込んだ取組となっている。将来的には、メタン発酵施設を本格導入し、生ごみとし尿・浄化槽汚泥をメタン発酵により液肥へと資源化する施設を整備することで、燃やすごみを削減し、市内3箇所の焼却施設を1箇所に集約する計画があり、経済・環境・地域産業等への効果が期待されている。
また、メタン発酵施設の発酵槽や農業ハウスの加温に木質バイオマスが利用されるなど、農林業が主産業である地域特性をいかした一体的な取組となっている。
地域循環共生圏の観点からは、市域内よりも広域な物質循環による新たな価値の創造という視点で里海米の取組も着目される。里海米はJA全農おかやまが中心となり進めている牡蠣殻を利用した米づくりであり、真庭市は県内最大の作付面積を誇り、市独自に「真庭里海米」としてブランド化するなど積極的に取り組んでいる。また、地域内のバイオマス関連施設を視察する「バイオマスツアー真庭」は年間3,000人が訪れており、バイオマスの取組が観光や飲食などへも波及効果を生み出している。
図2 真庭木質バイオマス発電所
出典:真庭市webページ
表3 真庭市の取組例
図3 真庭市の取組イメージ図
真庭市における取組効果の例を表4に挙げる。
表4 真庭市の取組効果の例
真庭市では約30年前よりバイオマス利用の取組が行われており、現在では先進地域として国内外から多数の視察・観光客が訪れる地域となっているが、取組当初は林業の衰退が深刻な課題となっており、高速道路の整備がされたことによる人口流出も懸念されていた。このような中、最初のきっかけとなったのは、当時地元の若手経営者により結成された「21世紀の真庭塾」である。21世紀の真庭塾では地域の未来について議論が交わされ、現在の取組の土台となる構想などがメンバーにより作られた。
真庭市では、現在も様々な人的ネットワークが形成され、情報交換や人材育成が地域ぐるみで行われており、行政だけではなく企業や住民が取組に参加していく風土が醸成されている。
表5 21世紀の真庭塾関連年表