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2024.11.21
福岡県南筑後地区

特徴

福岡県南筑後地域に位置する大木町は、平成18年に稼働開始したメタン発酵施設「おおき循環センター くるるん」を始めとして、「農業地域」であることも活かした資源循環分野の地域循環共生圏における象徴的な地域となっている。

近年では、複数の市長によるプラスチックリサイクルの取り組みや、近隣のみやま市においても生ごみとし尿・浄化槽汚泥を資源化して農業利用するメタン発酵施設「ルフラン」が稼働するなど、南筑後地域全体が地域循環共生圏の観点から今後の展開が注目される地域となっている。

図 1 南筑後地域(福岡県)



地域の概要及び取組背景[地域課題・ニーズ]

南筑後地域は、福岡県南部の筑後平野に位置する7市町からなり、総人口約30万人、農業(米、麦、果物、い草、茶)や有明海苔生産など第一次産業が盛んな地域である(表1)。平成23年のJR九州新幹線「筑後船小屋駅」開業以降は「筑後七国」として広域で観光、地域振興に取り組むなど連携も行われている。

大木町は地域内でいち早く平成18年よりメタン発酵施設の稼働を開始し、みやま市でも平成30年より施設を稼働させている。

稼働開始以前の取組背景としては表2の課題を抱えていた。


表1 南筑後地域7市町の基礎データ

出典:農林水産省わが町わが村(令和3年1月閲覧)


表2 大木町・みやま市の取組背景

図2 おおき循環センター「くるるん」
出典:中央環境審議会循環型社会部会(第32回)資料1-3「大木町の循環事業 持続可能な発展を目指して」

図3 大木町環境プラザの分別回収の様子


南筑後地域の取組概要

南筑後地域では、表3及び図3に示すような様々な取組が、複数市町による広域的な連携も図られつつ進められている。

大木町では、ごみは29品目に分別収集し、生ごみはメタン発酵原料として発電・液肥生産に利用、液肥は地域の主産業である農業に利用されている。「菜の花プロジェクト」の菜の花栽培では、液肥で栽培した菜の花から菜種油を生産・販売し、家庭から出る食用廃油を分別回収、BDF化して、ごみ収集車両の燃料に使用するなど、資源循環の仕組みを構築している。

また、メタン発酵施設を町の中心に設置し、道の駅を併設することで、「迷惑施設」ではなく人が集まるにぎわいの場となり、更に住民に資源循環の形が見えることにより、ごみ分別や削減の意識を醸成している。プラスチック資源化や紙おむつ資源化、その他資源の選別など地域内の他市町と連携し実施している。これらの取組により、燃やすごみの排出量はピーク時(平成17年)の2,295tから平成30年には914tに減少し、処理費用は年間3,000万円前後の削減効果などがあり、全国各地から視察が訪れるなど好循環を生み出している。

上記の大木町の取組も参考に、みやま市でもメタン発酵による資源循環が開始され、現在は筑後七国が参画する「南筑後地域循環圏」としてプラスチックリサイクル研究会が発足されるなど、地域全体での資源循環の取組に発展している。


表3 南筑後地域の取組例

図4 南筑後地域の取組イメージ図 ※令和元年度時点



取組による効果[新たな価値創造 + 地域経済循環、地域ビジネス促進]

南筑後地域における取組効果の例を表4に挙げる。


表4 南筑後地域の取組効果の例

取組の成立等にかかるポイント[相互連携・パートナーシップ]

南筑後地域の取組は、メタン発酵施設など専門性の高い分野がある一方、地域住民の協力も不可欠となっている。取組の成否について、地域関係者へのヒアリングでは次のポイントが挙げられた。

  • 南筑後地域では、地域課題を関係者(大学、民間事業者等を含む)と共有し、専門家と一緒に課題を解決する仕組みを構築している。行政が孤立して取り組むのではなく、産官学で連携し住民と一緒に積み上げることで、施設が受け入れられやすくなり、分別などの協力も得られやすい。
  • 建設後ではなく、検討段階から住民に取組提案をしていくことで歓迎される施設になる。迷惑施設対策が労力・コストがかかるのに対し、歓迎される施設となることでコスト削減にもつながる。
  • メタン発酵施設では臭気対策も重要であるが、カフェなどを隣接することで、まちのにぎわい施設としての機能を果たすようになり、全く迷惑施設ではなくなる。それにより、町の真ん中(又は液肥のまきやすい田んぼの中)に整備することができ、収集・運搬距離が短くなり、コストや温暖化対策の面でも有利となる。
  • 実現するには取組への熱意を持った人が2~3名必要である。処理費の削減を目指すのであれば、ある程度労力は必要となるが、熱意を持って推し進めることができる人材や組織トップの思いがあるかが重要となる。労力を掛けないのであればお金を掛けるしかない。
  • 環境行政には首長、上役の思いも重要。新しい取組をする時に人を充てられるか、また、財政への貢献や温暖化対策への貢献、地域活性化、町への貢献など、未来を想像し、色々な目線で考えられるかどうかが重要である。

参考資料

主な参考資料

  • 大木町「大木町の循環事業 持続可能な発展を目指して」(令和元年11月、中央環境審議会循環型社会部会第32回資料) (https://www.env.go.jp/council/03recycle/post_166.html)<本文全般、表4>
  • 前川、花嶋、渡邊、中村「福岡県みやま市の資源循環施設に関する研究 公共施設マネジメントの観点から」(令和2年3月、大阪産業大学人間環境論集19)(https://osu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=2237&item_no=1&page_id=13&block_id=21)<本文全般>
  • みやま市「生ごみ・し尿汚泥系メタン発酵発電設備導入可能性調査 報告書(平成26年3月)」<本文全般、表4>

その他参考資料

  • 大木町「バイオマスタウン構想」(平成17年)(https://www.maff.go.jp/kyusyu/kikaku/baiomasu/attach/pdf/b_town-2.pdf)<表2>
  • みやま市「バイオマス産業都市構想」(平成26年7月)(https://www.city.miyama.lg.jp/s031/shisei/100/150/050/20200104135000.html)<表2>
  • 環境省グッドライフアワードwebページ「取組紹介 地域資源を活かした資源循環まちづくり」(https://www.goodlifeaward.jp/?glaentry=glaentry-6249)<表2>
  • みやま市「未利用資源を活かしたバイオマス発電によるJクレジット創出事例」(環境テクノス(株) J-クレジット制度・活用セミナーin九州 資料)(http://www.kan-tec.co.jp/project/j-credit/seminar.html)<表2>
  • おおき循環センターwebページ(http://project.kururun.jp/c2.html)<表3①>
  • 大木町「大木町のメタン発酵による生ごみ循環事業(平成26年11月)」(BIN第142回研究会資料)(https://www.npobin.net/research/data/142thSakai.pdf)<表3①⑦>
  • 三井E&S環境エンジニアリング(株)「みやま市の生ごみ・し尿等の資源化」(廃棄物処理施設技術管理協会 環境技術会誌179号)(https://jaem.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/10/179-01.pdf)<表3②>
  • NEDO「新エネ百選 選定事業集(2009年6月)」(https://www.nedo.go.jp/library/pamphlets/ZZ_pamphlets_08_3dounyu_nes100_index.html)<表3③>
  • 菜の花プロジェクトネットワークwebページ「82.福岡県大木町 おおき循環センター“くるるん”」(http://www.nanohana.gr.jp/?page_id=1373)<表3③>
  • トータルケアシステム「使用済紙おむつ完結型マテリアルリサイクル取組提案」(環境省 使用済み紙おむつリサイクルガイドライン説明資料)(http://www.env.go.jp/recycle/recycling/diapers/diapers_recycling.html)<表3④>
  • 大木町「紙おむつリサイクル事業」(環境省 紙おむつリサイクルガイドライン策定に関する検討会(第1回)配布資料)(http://www.env.go.jp/recycle/recycling/diapers/pdf/001/omutu1_5-1_ooki.pdf)<表3④>
  • みやま市「広報みやま2015年8月号」<表3④>
  • 大木町「広報おおき(平成28年11月号、平成30年4月号、5月号)」<表3⑤⑥>
  • 大木町「大木町が目指す循環のまちづくり」(平成28年12月、環境省主催「循環資源の活用による地域活性化に向けて 地域循環圏形成推進のための研修」講演資料)(http://www.env.go.jp/recycle/circul/area_cases.html)<表3⑥>
  • 朝日新聞デジタル「廃校生まれ変わる 企業チャレンジ施設に みやま(2019年5月4日)」(https://digital.asahi.com/articles/ASM5134MJM51TGPB001.html)<表3⑧>
  • 大木町「持続可能な循環のまちづくり」(総務省人材ネットwebページ)(https://www.soumu.go.jp/main_content/000411093.pdf)<表4>