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2022.08.17
武蔵野市、都心のごみ処理施設を「エネルギーリソース」に。防災と脱炭素も実現

東京都のほぼ中央に位置する武蔵野市は、10.98平方kmというコンパクトな面積ながら、都内屈指の人口密度の高さだ。限られたエリアで効率よくエネルギーの地産地消を実現するには、ごみ発電によるクリーンなエネルギーが欠かせないという。

市役所等に隣接する武蔵野クリーンセンターが作り出す廃棄物エネルギーを無駄なく活用した「新武蔵野クリーンセンター整備運営事業及び武蔵野市エネルギー地産地消プロジェクト」について、武蔵野市環境部ごみ総合対策課 課長補佐兼地産地消エネルギー推進担当係長*の井上保氏、同下水道課 課長補佐兼施設管理係長*の神谷淳一氏(前 新クリーンセンター建設担当及び地産地消エネルギー推進担当係長)に仔細に伺った。

*井上氏、神谷氏ともに2022年3月時点の役職

まず、武蔵野市エネルギー地産地消プロジェクトの全体像を教えてください。

武蔵野の雑木林をイメージした武蔵野クリーンセンターの外観

井上氏 「武蔵野市エネルギー地産地消プロジェクト」とは、本市のごみ処理施設である武蔵野クリーンセンターで生み出す電気や熱を効率的に有効活用し、年間約1,000トンの二酸化炭素(CO2)排出量の削減を目指すものです。

具体的には、武蔵野クリーンセンターで発電した電気を、電力自営線によって隣接する武蔵野市役所など近隣公共施設5施設に送るとともに、自己託送制度を併用して市立小中学校全18校へも送っています。また、同クリーンセンターで発生した蒸気も総合体育館(温水プール)、市役所において、プール加温や冷暖房等で活用しています。

武蔵野クリーンセンターは、本市が単独で運営する唯一のごみ処理施設です。特徴は、なんと言ってもその立地です。市街地に位置する武蔵野クリーンセンターには、市役所をはじめ総合体育館(温水プール)、コミュニティセンター、市営グラウンド、広場、市立中学校が隣接しています。

クリーンセンターには最新鋭の焼却プラント設備を導入し、環境の保全に細心の注意を払っています。外観は武蔵野の雑木林をイメージしたデザインとし、街の景観との調和を図りました。また、2階には、誰でも自由に入ることができ、一周回遊するだけでごみ処理の流れを理解できる見学者コースを設け、市民に開かれたごみ処理施設となっています。

見学者コースから見ることができるごみピット

本市では、この独自性の高い立地条件に着目し、さまざまな仕組みを組み合わせた「武蔵野市エネルギー地産地消プロジェクト」を通して、エネルギーの「創・蓄・省・賢(スマート)利用」を目指しています。


プロジェクトに取り組むきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

井上氏 ごみ処理施設というと市民の方に敬遠される迷惑施設というイメージが強いものですが、本市では「まちに溶け込み、まちにつながる武蔵野クリーンセンター」を目指しています。実は、こうしたコンセプトについては、市民参加における議論で決定しています。

現在のクリーンセンターは2代目の施設で、初代は昭和59年に建設されました。しかし、住宅地の真ん中に清掃工場が建てられるということで、当初は市民による強い反対運動が起こりました。そのため、市民参加方式にて、クリーンセンター建設計画を進め、稼働後についても、市民の方々も参画する「武蔵野クリーンセンター運営協議会」を発足しました。初代の施設稼働開始から、クリーンセンター運営状況の監視役、地域と市行政のつなぎ役として活動が行われてきましたが、2代目においても同様に、建設計画の段階から市民参加方式が継承されました。

神谷氏 こうして市民に開かれたクリーンセンターを目指して検討を重ねていたところ、東日本大震災が発生しました。市役所本庁舎も計画停電の対象となり、災害時のエネルギー供給に大きな課題が突きつけられたのです。市民の方々からも、災害に強い施設にしていきたいというご意見をいただきました。

そこで、余熱利用については、高効率ごみ発電の導入で検討を進めていた「施設基本計画」の方針を大きく転換しました。2代目のクリーンセンターは、街なかにあるという立地も生かし、「災害に強い施設づくり」をコンセプトに据えた施設にしようということになったのです。

井上氏 こうした経緯があり、クリーンセンターのコンセプトは(1)環境の保全に配慮した安全・安心な施設づくり、(2)災害に強い施設づくり、(3)景観及び建築デザインに配慮した施設づくり、(4)開かれた施設づくりーとなりました。

具体的に、どのように防災とエネルギー地産地消を両立したのかお聞かせください。

エネルギー地産地消プロジェクトのイメージ図 出典)武蔵野市

神谷氏 まず、武蔵野クリーンセンターでは、ごみを燃やした余熱で電気と蒸気をつくるごみ発電設備(蒸気タービン設備)により、年間約1,300万キロワットアワー、約4,000世帯の年間消費電力量に相当する電気をつくりだしています。さらに、非常用兼常用ガス・コージェネレーションシステムを導入することによって、災害時ごみ発電が一時的に停止してしまった場合でも、災害に強いとされる都市ガス(中圧)を燃料として、焼却炉が再稼働できるシステムを構築しました。

次に、新クリーンセンター建設時において、クリーンセンターと隣接する市役所・総合体育館・緑町コミュニティセンター・市営グラウンド・緑町ふれあい広場へ電力自営線で結び、更にエネルギー地産地消プロジェクトにて、むさしのエコreゾート(環境啓発施設)、市立第四中学校へも電力自営線で結びました。電力自営線とは、自家発自家消費として、電力会社ではなく行政機関や民間企業などが自ら敷設する電線のことです。この4施設へは常時電気を供給し、市役所・総合体育館・温水プールへは蒸気も供給しています。

これによって、電力会社からの電気の供給がストップしても、クリーンセンターが発電できれば、電力自営線で接続されている近隣公共施設へも電気を継続的に送ることができるようになりました。市役所は行政機能の中枢であり、総合体育館は、地域防災計画では、緊急物資輸送の拠点施設となります。こうして、近隣公共施設のエネルギーインフラをごみ処理施設である「武蔵野クリーンセンター」が支える仕組みをつくり上げていったのです。

現在は、防災に加えてエネルギー利用効率の向上にも積極的に取り組んでおられます。

むさしのエコreゾートに設置されている蓄電池

神谷氏 このように、当初は防災拠点としての仕組みを構築していったのですが、武蔵野クリーンセンターの本格稼働後、廃熱エネルギー利用をより効率化できないかといった課題が強く意識されるようになりました。

そこで、第四期武蔵野市環境基本計画を踏まえ、クリーンセンターをエネルギーリソースとして捉え直し、エネルギーの効率的な活用方法をさらに深堀りすることになったのです。そこで、「武蔵野市エネルギー地産地消プロジェクト」として平成30年度から新たに3ヶ年プロジェクトを始めました。

具体的には、需要側の公共施設において、LED照明や空調機器の更新による省エネ化を行いました。総合体育館にはBEMS(ビルディング・エネルギー・マネジメント・システム)を、クリーンセンターにはCEMS(コミュニティ・エネルギー・マネジメント・システム)を導入することにより、エネルギー使用量を常に監視、予測し、効率的なエネルギー利用の実現が可能となりました。

特に、クリーンセンターは電力自営線で近隣公共施設に電気を供給しているため、供給先の電気の使用パターンにごみ発電の発電パターンを合わせることが大きな課題でした。そこで、CEMSを用いて電気の需給バランスを踏まえた最適な発電パターンを予測・算出し、ごみ発電計画のマッチングを図っています。

また、クリーンセンターは24時間発電しますが、供給先の近隣公共施設は休館となるため、夜間はあまり電気を使いません。そのため、夜間に発電した電気を蓄電池に貯め、電気を多く使う日中に放電できるように大型蓄電池を導入しました。

さらに、この蓄電池の充放電をCEMSによってコントロールすることで、クリーンセンターを中心とする面的なエネルギーの利用効率を向上させるように取り組んでいます。蓄電池は総合体育館、むさしのエコreゾート、第四中学校に分散配置し、蓄電容量は合計で1.6メガワットアワーにのぼります。なお、第四中学校には、災害時対応として、非常時のみクリーンセンターから電気を供給できるように電力自営線を新たに敷設しました。

加えて、電力会社の送電ネットワークを活用する自己託送も開始し、18の市立小中学校へもクリーンセンターの電気を供給できる体制を構築し、エネルギーの低炭素化を図っています。


プロジェクト全体についてはどのような評価をされているのでしょうか。

神谷氏 本市のプロジェクトは、平成30年に改訂された国の「廃棄物処理施設整備計画」に記されている「地域に新たな価値を創出する廃棄物処理施設の整備」に資するものであり、国の目指す方向性とマッチングしていると考えています。

ごみ処理施設は従来、「NIMBY(ノット・イン・マイ・バック・ヤード)」という迷惑施設とされてきました。必要な施設ではあると誰もが理解しているものの、自宅の近くには建てないでほしいと思われてきたのです。

しかし、本プロジェクトを通して、ごみ処理という単一の目的にとどまらず、防災やエネルギー効率化といった複合的な役目を果たす施設として活用することで、迷惑施設から歓迎施設(PIMBY:プリーズ・イン・マイ・バック・ヤード)へとイメージの転換につながるのではないかと考えています。

同時に、我々のような自治体やその運用などに携わるメンバーにとっても、ごみ処理施設に対する意識の改革が求められていると感じます。ごみ処理施設は、廃棄物の処理を行うだけでなく、エネルギーリソースとしてより多様な可能性を秘めた施設であり、地球温暖化に資するゼロカーボンシティの一翼を担うものであると、捉え直す必要があるのではないでしょうか。



プロジェクトで苦労された点や課題についてお教えください。

神谷氏 エネルギーの地産地消に関しては、昼間と夜間の電気の需給バランスに課題があると思っています。クリーンセンターの発電電力全体としての地産地消率が約70%に留まっていたため蓄電池による地産地消率の向上に取り組んでいますが、その効果はまだ十分とは言えず、限りなく100%に近づけていきたいと考えています。

また、クリーンセンターの常用兼非常用ガス・コージェネレーションシステムの常用利用に関しては、使用量が少ないために燃料コストが高く、費用対効果があまりよくありません。この経済性の向上も課題のひとつだといえます。

実務的な点で言うと、保安規程による停電を伴う定期点検の際には、クリーンセンターと自営線の供給先の近隣施設とで日程を合わせる必要があり、関係各所との調整が重要となります。

プロジェクトの遂行においては、自営線や自己託送の実施にあたって経済産業省や電力会社(一般送配電事業者・小売事業者)、電力広域的運営推進機関(OCCTO)などとの協議に多くの時間とパワーを要しました。


エネルギー地産地消プロジェクトの将来構想についてお聞かせください。

井上氏 本市では、平成31年度に「地産地消エネルギー面的利用拡大における将来構想」について検討し、クリーンセンターを核としたスマートシティのエリアモデルを確立しました。このエリアモデルとは、住宅地域におけるエネルギー地産地消を実現するためのパッケージとして、市内各地域での応用した展開を目指しています。

この構想では、SDGsの考え方に基づき、環境・エネルギー分野にとどまらない分野横断的な施策を提案し、市内エネルギーの有効利用や低炭素化の実現などを目指しています。

こうした考え方のもと、令和3年度から2〜3年を「Step1:エネルギー需給の最適化と災害時のエネルギー供給強化」、5〜6年を「Step2:市内エネルギーの統合管理と電力の広域利用」、それ以降を「Step3:再生可能エネルギーの最大導入とエネルギーの新たな活用」としています。

今後のStep3では、市内のスマートグリッドの形成やVPP(バーチャル・パワー・プラント)を実現するためにSPC(特別目的会社)を設立することなども視野に入れています。また、市内の再生可能エネルギー賦存量は限られており、再生可能エネルギー比率をアップさせるには、友好都市をはじめ地方都市との連携が欠かせません。そのため、地方から市内への再生可能エネルギー調達も検討していきたいと考えています。



市民とのコミュニケーションについてお考えをお聞かせください。

武蔵野クリーンセンターで開催されるイベントを紹介するフリップ

井上氏 今後、本市がさらにエネルギー地産地消の取り組みを拡大するには、市民の理解を得ることが不可欠です。まずは本取り組みを知ってもらうことが重要だと考え、市職員が製作・出演した「武蔵野市のエネルギー地産地消 密着!バイ電の1日」という動画コンテンツを配信しています。

クリーンセンターでは、イベントを通して環境にやさしいライフスタイルやサーキュラーエコノミーについて情報発信を行っています。また、現在も武蔵野クリーンセンター運営協議会が活動を続けており、市民に開かれたごみ処理施設であり続けるよう努力を重ねています。プロジェクトはもちろん、日頃から市民や関係者と密なコミュニケーションを図りながら、クリーンセンターの取り組み、ごみ処理問題や環境問題などについて理解を深めていただくことが大切だと考えています。

神谷氏 クリーンセンターが迷惑施設ではないことをアピールする一方で、一番の目的は“ごみ減量”です。出てしまったごみは、クリーンセンターで焼却処理(サーマルリサイクル)されて有効活用しているという一連の流れを理解していただきつつ、市民の皆様には、まずはごみの減量(リユース・リデュース)を念頭に置いていただきたいと考えています。

最後に、他の自治体の方々に向けたメッセージをお願いします。

神谷氏 さまざまな課題がありましたが、本市では約1年間という短期間で武蔵野市エネルギー地産地消プロジェクトの事業化に至ることができました。この推進力となったのは、主幹部門のリーダーが熱意を持って取り組んだことが奏功したのではないかと考えています。

また、市民参加の議論で生まれた意見を真摯に受け止め、基本計画に取り入れ、合意形成につなげるという柔軟性や、それに対応できるような横断的な組織体制も重要だと思います。

一方で、本市の取り組みは全国でも先行事例がほとんどなかったため、民間の技術ノウハウを最大限活用しました。クリーンセンターの建設にあたっては、設計・建設・運営をまとめた20年間のDBO方式を採用し、総合評価の一般競争入札を行いました。エネルギー地産地消プロジェクトでは、専門ノウハウをもつ複数の民間事業者が参加できるよう、コンソーシアムによる公募型プロポーザルを採用しました。

将来的には、少子高齢化・人口オーナスによる自治体職員数の減少や技術力の低下などが想定されますが、こうした行政と民間のパートナーシップによって課題解決につなげる仕組みづくり、意識改革が重要だと考えます。

井上氏 昨今、環境問題やごみ処理問題に多くの関心が寄せられています。このような社会情勢の中、迷惑施設とされていたごみ処理施設を、あえて市民に開かれた施設としたことや廃熱エネルギーの利活用による低炭素化への取り組みは今後、更に重要なものとなってくると考えます。

都市型ごみ処理施設をもつ自治体はもちろん、そうでない自治体の皆さんにも、本市の取組みを参考にしていただき、ごみ処理施設を地域に歓迎される施設に生まれ変わらせてほしいと思います。