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2022.02.04
「浜松グリッド8」、8つのマイクログリッドでエネルギー自給率とレジリエンスを向上

国内有数の日照時間を誇る浜松市では、太陽光発電設備を活用し、エネルギーの地産地消と地域のレジリエンス向上の双方を目指す地域共生事業が行われている。電線や電柱をみずから敷設し、太陽光発電設備や蓄電池と公共施設を結ぶマイクログリッドを8ヶ所構築した。これらのマイクログリッド間で余剰電力をできる限り使い切り、エネルギーの自給自足を実現している。

令和2年度の新エネ大賞 地域共生部門で新エネルギー財団会長賞を受賞した「浜松グリッド8」の取組みについて、浜松市 産業部エネルギー政策課の辻貴弘氏、株式会社シーエナジー営業部 部長の城田猛氏、技術部 部長補佐の宇佐美高幸氏、営業課 課長の柳川雄大氏に話を伺った。

まず、「浜松グリッド8」の概要を教えて下さい。

柳川氏 「浜松グリッド8」とは、株式会社シーエナジー(以下『シーエナジー』)、浜松市、自治体新電力である株式会社浜松新電力(以下『浜松新電力』)が協働で実施した「浜松市の地域特性を生かした地産地消分散型エネルギー事業」を指します。

浜松市の特性である日照時間の長さを活用し太陽光発電を行い、その発電した電力を浜松グリッド8内で使い切る取組みです。

浜松グリッド8では、まず、浜松市内の都心部から中山間地域までの8ヶ所で、2つの公共施設を使ったマイクログリッドを構築しました。マイクログリッドとは、あるコミュニティの中で電力をつくり使う小規模な電力網のことです。マイクログリッド内で、太陽光発電設備や蓄電池といった分散型電源から公共施設へと電力を供給します。これによってエネルギーの地産地消を実現できます。

マイクログリッドの構築にあたっては、公共施設間で自営線を敷設しました。自営線とは事業者みずからが敷設する電線や電柱のことです。自営線を敷設したことで、太陽光発電設備を設置していない側の公共施設でも、太陽光発電の電力を使用できるようになり自家消費率が向上しました。

それでも各マイクログリッドで消費しきれない発電電力はマイクログリッド間での融通を浜松新電力が行います。これにより、浜松グリッド8内で発電された電力を浜松グリッド8内で使い切ります。

また、自然災害などで電力会社のネットワークが遮断されても、太陽光発電設備や蓄電池から公共施設の重要負荷へ電力を供給することが可能です。自営線でつないだ公共施設は避難所を対象としており、地域のレジリエンス向上にも役立っています。

(出典:株式会社シーエナジー)

複数のマイクログリッドを連携させて、再生可能エネルギーの自家消費率を上げる取り組みは全国でも珍しいと思います。取組みのきっかけは何だったのでしょうか?

辻氏 事業の大きな背景としては、浜松市が「エネルギー・スマートシティ」という目標を掲げ、官民一体となった取組によりその実現を目指していたことにあります。

浜松市は東日本大震災を契機として、平成24年度にエネルギービジョンを策定し、このビジョンのもとで、日照時間が長い地域特性を生かした太陽光発電の導入拡大等のさまざまなエネルギー政策に取組んできました。

その取組の1つに、エネルギー・スマートシティの実現に向けた、官民連携のプラットフォームである「浜松市スマートシティ推進協議会」があります。浜松グリッド8は、シーエナジーが個別プロジェクトとして推進協議会に提案し、協議を重ね実現したものです。

柳川氏 浜松市の「エネルギー・スマートシティ」というビジョンを受け、本事業の目的を3つ設定しました。1つ目は「再エネ電源を活用したエネルギーの地産地消」、2つ目は「地域のレジリエンス強化」。そして3つ目が「官民連携による費用対効果の高い事業モデルの構築」です。

事業全体の採算性は特に重視していました。採算が合わなければ事業の継続は困難です。そこで、官民で連携しながら、費用対効果も視野に入れたモデルを目指すことにしたのです。

それぞれのマイクログリッドを構成する公共施設は、どのような条件で選定されたのですか?

辻氏 施設を選定するうえでは、さまざまな条件を考慮する必要がありました。太陽光発電を設置できるスペースがあることや、2施設を自営線で結びマイクログリッドを構築するため供給先の需要施設が隣接していることは必須条件でした。

そのほかにも、それぞれの公共施設の耐用年数や活用計画、避難所の指定の有無、施設の事業会計や指定管理者制度といった視点からも検討や協議を重ねました。最終的に市の中山間地域の病院や福祉施設、学校等を含む8ヶ所の特色あるマイクログリッドを構築できました。

太陽光発電設備と公共施設を自営線で結ぶ際に留意したポイントはありますか?

柳川氏 マイクログリッドの1つである三ヶ日浄化センターマイクログリッド(三ヶ日浄化センターと三ヶ日中学校)の例を挙げて説明します。三ヶ日浄化センターは、太陽光発電設備の設置スペースがあり、電力需要の小さい施設でした。一方で、三ヶ日中学校は災害時に避難所になりますが太陽光発電設備の設置スペースはなく、中程度の電力需要があります。

そこで、三ヶ日浄化センターに太陽光発電設備を設置し、自営線によって三ヶ日中学校へ電力を供給することにしました。ここで留意したのは、発電側と需要側とで電力の使用パターンの異なる施設を組み合わせたことです。

三ヶ日浄化センターの電力の使用パターンは年間を通じて比較的平準化されていますが、三ヶ日中学校は夏季や昼間に電力を多く使う傾向にあります。三ヶ日浄化センターの時間最大電力は39kWで、19時ごろに発生していました。一方で、三ヶ日中学校のピークは14時ごろの119kW。マイクログリッド構築前には、2施設の電力デマンドの合計は158kWでした。

マイクログリッドの導入後は、2施設の一括受電によって時間最大電力を131kWに抑えることができたのです。電力の使用パターンの異なる2施設を1つのマイクログリッドとしたことで、27kWのデマンド削減に成功しました。

このように、電力の負荷形態の異なる施設を組み合わせて負荷平準化を図り、マイクログリッド全体で最適化を図ったことがポイントです。

また、太陽光発電で日中の電力をまかなったことで、昼間のデマンドカットにもつながりました。

さらに、蓄電池の放電によって電力デマンド超過を回避しています。蓄電池は本来、バックアップの目的で導入したものですが、余力があるときにはこのように電力デマンド削減のためにも活用しています。

(出典:浜松市)



* このあと、余剰電力の融通、マイクログリッドの運用による効果、将来に向けたビジョン、他の自治体へのメッセージへと話はつづく。

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