静岡県浜松市では、令和6年4月に稼働を開始する新しい清掃工場における付加価値事業として、清掃工場の余熱を利用した養殖事業などを行う予定だ。すでに事業者は決定しており、清掃工場の稼働を待って、付加価値事業の着工を開始する予定となっている。
どのような経緯で、付加価値事業を検討、選定してきたのか、浜松市環境部廃棄物処理課新清掃工場建設担当課長の石原敦資氏にお話しをおうかがいした。
石原氏 本市は静岡県の西部に位置し、南は遠州灘、北は赤石連峰を臨み、東は天竜川、西は浜名湖に面し、温暖な気候と豊かな自然環境に恵まれた土地柄です。平成17年7月に市町村合併により、人口が80万人を超え、静岡県第1位となりました。平成19年4月には、全国で16番目となる政令指定都市へ移行し、7つの行政区から構成されています。
本市のごみ処理施設の体制は、合併前の各市町村が所有していた施設を引き継ぎ、その後の施設の統廃合により、現在は2施設(南部、西部清掃工場)で可燃ごみの処理をしております。広域処理として、平成22年10月からは湖西市の可燃ごみを事務委託により本市で受け入れております。
粗大、不燃ごみについては、平和破砕処理センター(西区)で破砕処理をしております。
埋立につきましては、市内4か所の最終処分場で処分をしております。
石原氏 新清掃工場は南部清掃工場(南区)と平和破砕処理センター(西区)の老朽化による、代替施設として、PFI事業のBTO方式により、本市の天竜区内に、造成及び専用道路を含めた清掃工場の整備を進めております。受注者は特別目的会社の株式会社浜松クリーンシステム(以下、「SPC」という。)、代表企業は日鉄エンジニアリング株式会社(受注時は新日鉄住金エンジニアリング株式会社)です。PFI事業は、平成30年2月に契約し、令和6年4月に稼働開始、令和26年3月末までを事業期間としています。
新清掃工場の処理能力は399トン/日、発電能力は1万5,120kWと所内利用の太陽光発電100kWです。また、同一棟内に、処理能力64トン/日の新破砕処理センターも併設します。
本年度は、主に造成工事を進めており、来年度から新清掃工場の建設工事に着手します。
付加価値事業は、事業地内に将来の工場の更新用地があるため、工場建て替えまでの間、その用地を有効利用するものです。
石原氏 本付加価値事業の趣旨であります、市域の活性化に資する付加価値の高い事業者を募集した結果、代表構成員として、金子コード株式会社(本社:東京都)、構成員は中村建設株式会社(本社:浜松市中区)が付加価値事業者として決定しました。スキームは、本市が付加価値事業者へ土地を有償で貸付け、使用した温水エネルギー利用料を市へ納めていただきます。
付加価値事業の内容は、新清掃工場から発生する温水エネルギーを利用したチョウザメの陸上養殖、植物工場によるワサビ、熱帯果樹等の栽培、浜松限定ブランドのうなぎいも等の露地栽培などです。溶融スラグも植物の肥料として利用します。地域雇用の創出につきましては、地元からの雇用を3人予定しております。
これらにより、事業排水ゼロ、溶融スラグ利用、エネルギーの有効活用を実現する「浜松型循環モデル」を構築すべく事業を目指すとともに、本付加価値事業の趣旨に合致した付加価値事業となることを期待しております。
金子コード㈱は、すでに、本市天竜区春野町内でチョウザメの養殖を行い、「HAL(ハル) キャビア」のブランドで出荷しております。ハルキャビアは、英国で開かれた、ポロの世界大会「ザ・ロイヤルウィンザーカップ2019」の副賞として採用されました。また、中村建設㈱はPFI事業のSPCの構成員でもあり、積極的にSDGsに取り組んでいる企業であります。
石原氏 付加価値事業は市のエネルギービジョンには位置づけられておりませんが、令和2年4月に改訂された「第2次浜松市環境基本計画」内の地域循環共生圏の本市の取り組みとして、「新清掃工場では、余熱エネルギー等を有効利用した新産業や雇用の創出など、市域の活性化に資する事業の展開に取り組んでいく」としております。
平成28年に民間企業へ余熱利用に係る事前調査を実施したとのことですが、そこに至る経緯というのはいかがでしょうか。
石原氏 平成27年度から平成28年度にかけ、余熱利用施設の考え方や付加価値について、「余熱利用庁内検討会議」を立ち上げ、庁内の関係課と連携し検討を行いました。
検討会議の中で、民間企業の意向調査が必要との意見があり、民間企業に対し調査及びヒアリングを行いました。
庁内の関係課は、平成27年度は5課(アセットマネジメント推進課、エネルギー政策課、農業水産課、林業振興課、廃棄物処理課)、平成28年度に5課(市民協働地域政策課、産業総務(雇用・労政担当課長)、産業振興課、農業振興課、天竜区振興課)を加えた10課となり、それぞれ専門的なご意見をいただきました。
石原氏 民間企業の事前調査の結果をPFI専門委員会で審議をしていただき、本市として、付加価値事業は、PFI事業と切り離し、独立採算制の民間事業として実施することとしました。また、より多くの付加価値事業提案を求めるため、付加価値事業の募集時期を平成31年度以降としました。
PFI専門委員会は、新清掃工場及び新破砕処理センター施設整備事業において、民活手法等の導入について、審議、調整を行う委員会となります。委員は、外部有識者6名と行政職員3名の計9名で構成されました。
石原氏 市域の約7割を占める森林は、日本三大人工美林の1 つ「天竜美林」と呼ばれ、地域の林業を発展させる重要な役割を果たしてきました。浜松市バイオマス産業都市構想(平成26年1月)に基づき、木質バイオマス発電についても検討をしましたが、いろいろと課題が多く、本件に適した事業とはいえない、という結論となりました。
石原氏 付加価値事業の募集時期を平成31年度以降としたこともあり、平成30年8月に新清掃工場整備の主管課である廃棄物処理課から庁内の全課に向けて、「新清掃工場の余熱等を利用した付加価値事業の参画」の照会を行い、農業・水産業などの第一次産業は、先端技術の活用が必要、産業としての伸びしろが大きい分野であり、新清掃工場で発生する熱を利用した、スマート農業やスマート水産業により、市内の第一次産業の事業者への波及効果の期待ができることを理由に、農業水産課から参画希望がありました。
10月に庁内関係の課の3課(農業水産課、アセットマネジメント推進課、廃棄物処理課)で、付加価値事業の主体課会議を行い、付加価値事業の進め方を協議しました。11月からは政策法務課経営推進担当を加え、4課で調整を行い、12月に募集事業種を農業・水産分野に絞り込んだ業種としました。
令和元年5月からはエネルギー政策課を加え、庁内の5課でサウンディング型市場調査要項の調整を行いました。
石原氏 付加価値事業者の募集条件等を設定するにあたり、市場動向や民間事業者の意向を把握するため、公募条件確認型のサウンディング調査を、令和元年7月から9月にかけて、実施しました。
その結果、事業者がより参加しやすい募集条件について整理できたと思います。事業者募集の主な変更点は、以下の通りです。
(※1)サウンディング時の意見を反映させ、共同提案を認めました。その場合、市は共同提案の代表者と契約締結をします。
(※2)付加価値事業者が電気を電力会社から買電する際の費用を考慮し、貸付料金を減らしました。
(※3)新清掃工場から付加価値事業者へ、自営線で電気を供給することは、電気事業法上、困難であることがわかり、電気の供給を辞めました。ただし、付加価値事業者が地域新電力の㈱浜松新電力から電気を購入する計画をした際は、エネルギーの地産地消としてのプラス評価としました。
石原氏 清掃工場側の条件については、本市とSPCで綿密に調整し、募集要項に反映させました。特に新清掃工場からのエネルギー供給に係る責任分界やリスク分担については、法的な解釈を含め、慎重に判断しました。
新清掃工場の整備運営期間と、付加価値事業の整備運営期間とのマッチングも必要だったと思います。
石原氏 PFI事業の要求水準書において、SPCは、新清掃工場の運営業務の開始に合わせて、付加価値事業が開始できるよう、また、遅滞なく開始できるよう、設計・建設期間中に付加価値事業に対し、市と協力することと明記しています。
また、運営期間ですが、新清掃工場の運営期間は20年としているため、付加価値事業につきましても、付加価値事業施設の建設及び土地の原状回復を含め20年としております。
石原氏 新清掃工場の立地が都市計画区域外のこともあり、大きな制約はありませんでした。SPCが山を切り開き、造成した土地の一部を付加価値事業者が使用いたします。
石原氏 平成30年12月に、付加価値事業の事業種を農業・水産業分野に決めたことにより、新清掃工場から発生する余熱利用の条件など、具体的に検討できることとなりました。また、本市の職員が他都市の植物工場などを視察することにより、農業・水産業分野に係る知見を高めることができました。農業水産課の力が大きなものでした。そこで事業内容が絞られ、応募が見込まれる事業者の見通しもついてきたと思います。また、その結果として市庁としても準備がしやすかったといえます。
逆に言えば、「事業種は何でもいいです」という募集では、具体的な条件設定などを決めることができず、SPC、市、付加価値事業者のリスク分担も明確にするのが困難であったと思います。
石原氏 庁内の枠組みを超え、関係部署が一体となり、付加価値事業者選定に向けた協議を行いました。関係課からの専門的な意見をいただき、サウンディング型市場調査や事業者募集へ活かせたとことも原動力と思っております。
また、付加価値事業の最優秀提案者選定においては、選定委員の外部有識者のお力添えもあり、大変感謝しております。選定委員には、ベンチャー、農業・水産業、環境、SDGs分野に詳しい有識者にお願いをいたしました。
石原氏 新清掃工場の余熱を用いた地域貢献として、地域雇用の創出や地域振興につながるような施設の誘致等について事業地周辺の自治会から要望をいただきました。今回の付加価値事業は、地域の要望に沿った事業になっていると考えております。なお、新清掃工場の事業については、付加価値事業を含め、都度、自治会へ報告しており、良好な関係を築いていると認識しております。
石原氏 金子コード㈱と市による更新用地の借地及び余熱エネルギーの有償提供の契約を令和3年2月1日に行います。(令和3年1月現在)
その後、金子コード㈱には、付加価値事業の準備を進めていただきます。
石原氏 清掃工場の更新用地と余熱エネルギーを利用した、チョウザメの養殖という事例は珍しいと思いますが、エネルギーと土地などの条件が揃えば、他の自治体でもできると思います。
石原氏 天竜区春野町の「HAL(ハル) キャビア」はブランドとして、確立されております。新清掃工場のキャビアも新たな浜松ブランドとして、手頃な価格で食べられることを期待しております。
選定委員の外部有識者からも、「浜松ブランドの創生という意味でワクワクした」というコメントをいただきました。
石原氏 今回の事例は、主に清掃と農業・水産業行政との横連携により、付加価値事業者の選定ができたと思っております。
本市は、市民の理解もあり、新清掃工場及び西部清掃工場には将来の工場の更新用地を設けております。
他自治体におかれまして、清掃行政と畑違いの余熱利用や更新用地の有効利用を検討される際は、本事例を参考としていただけたら幸甚です。
(参考)浜松市付加価値事業等の経過について