メタン発酵では、し尿・浄化槽汚泥や生ごみなどの処理対象物のうち、炭素分の相当割合はバイオガスに転換される一方、窒素分は消化液と呼ばれる発酵後の液体に残る。この消化液には、原料に含まれる窒素、リン酸、カリなどの肥料成分はほぼ全量が消化液に含まれる。
消化液中の肥料成分の含有量は原料によって異なるが、最も多量に含まれる窒素は約半分が即効性のあるアンモニア態窒素であるため、消化液は化学肥料の代替として農業や家庭菜園などで利用することができる。消化液の利用は、後述するように、農家にとっては化学肥料の削減や散布負担の軽減といったメリットがあり、地域全体としても地域外から化学肥料を購入していた分の資金流出がなくなるといったメリットがある。
ただし、消化液を液肥として使用せず、水域等に放流しようとすれば、排水処理が必要となり、その際に使用する電気や薬品などによるコスト増加を招くだけでなく、二酸化炭素排出削減効果も減少することになるため注意が必要となる。
消化液の成分はメタン発酵の原料によって異なるため、最終的にはプラント運転後の成分分析が必要となるが、ここでは参考として既存事例における消化液成分を表1に示す。
表1に示すとおり、各成分の濃度には多少の差があるが、畜産ふん尿が主原料の事例では窒素やカリの濃度が高いといった傾向があり、プラントごとの消化液成分や土壌の状態などに応じて施肥設計を行う必要がある。
表1 消化液の成分濃度例(%)
A~H 財団法人 畜産環境整備機構 「メタン発酵消化液の水田利用および堆肥の燃焼利用マニュアル」(平成23年3月)
I~K 財団法人 畜産環境整備機構 「メタン発酵消化液の濃縮・改質による野菜栽培利用マニュアル」(平成25年2月)
消化液は前述のとおり、原料によって肥料成分の含有量が異なるため、過剰施用を防ぐために高濃度の成分量に合わせて施肥設計を行い、不足成分は化学肥料で補うのが一般的である。
肥料成分のうち窒素は、表1に示すように含有量の多くがアンモニア態窒素のため、空気中に揮発したり有機態窒素になったりと、全量が即効性のある硝酸性窒素にはならないことを考慮の上設計する。次の参考資料における実験結果では、窒素全量の65%が即効性を持ち、施用後すぐに耕起した場合は5%、耕起しない場合は30%が揮発するとしている。また、リン酸やカリは、堆肥の肥効率を参考に設計している例がある。
<消化液施肥量の算出例:窒素含有量に合わせて施用量を算出する場合>
消化液には多少の固形成分も含まれており、固液分離を行って液体を液肥に、固体を堆肥にといった利用例もあるが、固液分離を行わずに液肥利用することも可能である。また、種子や病原性微生物が消化液中に残る懸念がある場合には殺菌処理を行う。
参考:畜産環境整備機構「メタン発酵消化液の濃縮・改質による野菜栽培利用マニュアル」
消化液の散布は、スプレッダや流下ノズルをタンクに装備した車両で圃場内を走行しながら散布する方法、あるいは水稲であれば水と一緒に放流することで散布するといった方法がある。また、家庭用に「消化液タンク」を設置し、個人で自由に持ち帰って利用している地域もある。
消化液の利用によって、化学肥料の使用量が削減できるメリットがある。福岡県大木町では、地域内の有機資源から作られた消化液を用いて栽培された米のブランド化を進める取組が行われている。
また、消化液は液肥散布車を所有していない場合には散布に手間が掛かるため、多くの事例でメタン発酵施設側が散布車両を所有し、消化液の販売と散布を請け負う形が取られている。そのため、農家にとっては化学肥料の散布を自身で行っていた手間が解消されるメリットがある。
化学肥料は多くが地域外から購入するものであり、購入費用相当の経済流出があるが、地域資源から作られた消化液の利用によって経済流出が軽減される。
また、「地域で採れた作物を食べる、食事で出た生ごみでメタン発酵を行う、消化液を作物栽培に用いて食べる」といった循環サイクルができ、市民の環境への関心を高めたり食育に活用したりといったメリットも期待できる。